指導助言義務に関する近時の裁判例について

本研究は、先物取引被害全国研究会第90回大会(岡山大会)において、当研究会の吉谷健一弁護士、及び神戸先物証券被害研究会の加籐昌利弁護士の共同発表として報告されたものです。両弁護士の承諾を得て、転載させていただきます。

なお、本研究の著作権は、両氏にありますので、無断転載はご遠慮ください。


指導助言義務に関する近時の裁判例について

2024年4月12日

 

弁護士 加藤昌利(神戸)

弁護士 吉谷健一(姫路)

 

第1 本発表について

1 問題意識

【最高裁平成17年7月14日判決(民集59-6-1323)・裁判例№1】において、才口千晴裁判官は、「経験を積んだ投資家であっても、オプションの売り取引のリスクを的確にコントロールすることは困難であるから、これを勧誘して取引し、手数料を取得することを業とする証券会社は、顧客の取引内容が極端にオプションの売り取引に偏り、リスクをコントロールすることができなくなるおそれが認められる場合には、これを改善、是正させるため積極的な指導、助言を行うなどの信義則上の義務を負うものと解するのが相当である」として、指導助言義務に言及した。

これ以降、指導助言義務が注目を集めるようになり、指導助言義務を適合性原則上の義務や説明義務とは別の義務として肯定するという裁判例が見られるようになり、次第に定着しているように思われる。

本発表は、上記平成17年最高裁判決以降の下級審判決を分析し、指導助言義務違反がどのような形で認められているのか、その根拠、内容、他の違法要素との関係性などについて、分析を試みるものである。

 

2 本発表の構成

各裁判例の分析結果については、本レジュメに記載したとおりである。

本発表のために分析の対象とした裁判例は、別表のとおりであり、上記平成17年最高裁判決以降に出された21件の下級審裁判例である。分析した各裁判例の概略については、裁判例シート(裁判例№1~22)にも記載をしている。

 

第2 指導助言義務発生の法的根拠など

 1 義務の法的根拠

⇒信義則上の義務、善管注意義務違反とするものが多い。

特に法的根拠に言及しないものもある。

⇒いずれの法的根拠により指導助言義務違反を導いたかによって、義務の内容に差異が生じているというような傾向までは見いだせず。

 

2 債務不履行責任か不法行為責任か

⇒債務不履行とするもの、不法行為責任とするもの、債務不履行責任又は不法行為責任とするものがある。

⇒債務不履行責任か不法行為責任で、時効の点で差異が生じることはあり得る。しかし、債務不履行責任か不法行為責任かを真正面から争って、時効で請求棄却となった事例は見当たらない。

【東京地裁平成29年5月26日(裁判例№5)】

・不法行為責任について時効を肯定、債務不履行責任について時効を否定

信義則上又は委任契約上指導助言義務に違反したというべきである。・・・不法行為責任又は債務不履行責任を負う。・・・損害賠償請求権を不法行為に基づく請求権であると構成した場合に、これが時効により消滅したと認められるとしても、上記判示のとおり、被告は、同原告らに対し、オプション取引に関する委任契約上の債務不履行責任を負うのであって、これに基づく同原告らの損害賠償請求権については、被告の主張する消滅時効によって消滅するとはいえない

   ・法的性質について、「不法行為責任」又は「債務不履行責任」として曖昧にされている。

⇒どう考えるべきか?

証券会社や先物会社との間に継続的に委任契約関係が存在しているし、継続的に取引が続く状況で、一定の条件下で指導助言義務違反が発生するのであるから、契約に付随する義務として債務不履行と見ればよいのではないか?(時効などの問題がないなら、敢えて債務不履行責任か不法行為責任かにこだわる必要もないのではないか?)

 

第3 どのような状況下において指導助言義務が認められるか(実質的根拠)

 1 裁判例の傾向

  ⇒裁判例からは、①業者による勧誘の先行があり、②危険な状況の存在があり、③顧客と業者に格差があり、顧客が業者に対して依存的な状況があると認められるときには、指導助言義務違反が肯定される傾向にあると思われる。

 

2 業者による勧誘の先行

⇒問題となる取引に至るまでに、業者による何らかの勧誘が先行していることが前提。

このため、ほとんどの事案で、適合性原則違反や説明義務違反も主張されている。

業者の勧誘とは全く無関係に顧客が何らかの取引を開始し、その取引に関する指導助言義務違反を主張している案件はなく、それゆえ、そのような類型での指導助言義務違反の認容例もない。

⇒最高裁補足意見も、「証券会社が顧客に対してこのようなオプションの売り取引を勧誘してこれを継続させるに当たっては、格別の配慮を要することは当然である」としていることから、業者による勧誘が先行していることを前提としていると思われる。

 

 3 危険な状況の存在

最高裁補足意見は、指導助言義務が発生する状況として、「顧客の取引内容が極端にオプションの売り取引に偏り、リスクをコントロールすることができなくなるおそれが認められる場合には、これを改善、是正させるため積極的な指導、助言を行うなどの信義則上の義務を負う」としており、リスクをコントロールすることができないというような危険な状況にあることを前提としているといえる。

⇒危険な状況の分類

①取引自体のリスクの高さ

⇒例:極端にオプションの売り取引に偏る、常時両建、特定売買の手法を含む大量かつ頻繁な取引、証券担保ローンに基づく借入金を原資とした投資信託の購入をさせている状況で担保不足のアラームが出ている、などの状況

 

②理解力や判断力を超えている状態

⇒例:【大阪高裁平成20年8月27日(裁判例№2)】

このような頻繁かつ大量の取引となったのは、控訴人の利益獲得志向、本件取引開始時がITバブル期であったことなどもその一要因であるとは考えられるものの、その取引内容や数量等に照らし、控訴人において、その投資経験等を考慮しても、情報処理に基づく自主的かつ的確な投資判断ができる限界を超えているといわざるを得ず、上記のような知識経験を有する控訴人であっても、情報処理や投資判断については、信用取引のプロといえる乙山とは比ぶべくもなく

例:【東京地裁平成29年5月26日(裁判例№5)】

本件ロールオーバー取引によるリスクは、同原告らが自己責任で引き受けたリスクを明らかに超えるものであったと認められる

例:【名古屋高裁令和4年2月24日(裁判例№16)】

取引規模が拡大するとともに、取引内容が複雑化・高度化して、個々の取引の損益状況や取引全体の損益状況について理解困難な状況になっており、このような状況が亡Bの理解力や判断力を超えていることは、被控訴人Yも亡Bとのやり取りから十分認識できていたということができる。

③冷静かつ合理的な判断をすることが困難な状態

⇒例:【東京地裁平成21年2月23日(裁判例№4】

原告に冷静かつ合理的な判断をすることを期待するのが困難な状態であったと認められることからすれば、上記時点において、Bには、原告に対し、本件取引を終了させるように助言し、原告の損失拡大を防止すべき契約上の付随義務が生じていた

※損害拡大防止義務違反を指導助言義務違反と重複するものとして位置づけ

 

⇒①の状況にある中で、②理解力や判断力を超えて、情報処理が困難になり、あるいは、③冷静かつ合理的な判断ができない状況にまで陥ってしまえば、もはや顧客は自分の力でリスクをコントロールすることができない。

⇒①について、どの程度の状況の場合に認められるかは、顧客の属性によって、異なるだろう。知識、経験の浅い顧客は、②③の状態に陥りやすい傾向にあるだろうし、①のリスクの高い状況についても、相対的に緩やかに認められるのではないか。

 

4 業者に対して依存的な状況/業者と顧客の格差・不衡平など

⇒例:【大阪高裁平成20年8月27日(裁判例№2)】

そのような大量かつ頻繁な取引は、証券取引の知識経験が豊富であると認められる控訴人であっても、被控訴人担当者の指示や助言なしに投資判断をすることは極めて困難で、控訴人は、銘柄を含めて、かなりの程度、乙山の指導や助言のもとに本件取引を行ったものと認められ、

例:【名古屋高裁令和4年2月24日(裁判例№16)】

個々の取引の損益や取引全体の損益状況についても被控訴人Yからの情報に依存していたのであり、被控訴人Yが、亡Bとのやり取りを通じてこれらについて認識していた

例:【東京地裁平成30年9月28日(裁判例№7)】

商品先物取引に、おける利益や損失はいずれも顧客に帰するものであるところ、商品相場を確実に予測することは不可能であるから、顧客において利益を得ることができるかどうかは本来不確実である。これに対し、商品先物取引業者は、顧客の相場予測が当たっても当たらなくても、取引ごとに手数料収入を得ることができるから、商品相場がどのように動こうとも少なくとも損をすることはない。法が両建の勧誘を禁止し(法214条8号)、両建取引を理解していない顧客から受託することを禁止したのは(法214条9号、規則103条9号)、商品先物取引の射幸性及びその危険性に加え、商品先物取引業者と顧客との間には上記のような不衡平が存在することから、商品先物取引業者が顧客の利益をないがしろにして手数料収入を得ようとすることを防止するためであると解される。そうすると、被告らは、商品相場の値動きの予測に精通し、かつ、原告の財産状況や取引経験、本件先物取引の状況を全体として客観的に俯瞰できる立場にあるのだから、原告に対し、両建の仕組みとそのリスクを説明した上で原告の責任と判断に委ねるだけではなく、取引開始後の場面においても両建のリスク等を原告に説明すべきであり、その結果原告が両建を選択した後も、必要に応じて損切りを指導したり早期の手仕舞いを助言したりする等の指導助言義務を負うものと解するのが相当である。

⇒業者と顧客には、投資に関する知識、経験等に大きな格差がある。業者は、専門家として、取引の状況を全体的に客観的に俯瞰できる立場にある。顧客は、業者に手数料を支払っており、信頼も寄せている。

⇒顧客が、自分の能力では、リスクコントロールが困難な状況に陥れば、専門家であり、また、信頼を寄せている業者に対し、依存的にならざるを得ない。業者には、専門家として、適切な指導助言を行う責任があるといえる。

⇒顧客属性によって依存的になる状況は異なりうる。知識、経験の浅い顧客は、より依存的にならざるを得ない。

⇒コンサルティングコースであることを考慮要素として言及する事例

【名古屋地裁令和3年5月20日(裁判例№14)】

     一般投資家は、取引参加者に委託して取引を行わざるを得ず、取引参加者は、一般投資家に比して取引の仕組み及びリスクを熟知し、かつ、一般投資家から徴収する手数料で利益を得ている。

また、被告会社が提供するくりっく株365のコンサルティングコースにおいては、専任の担当者が相場情報の提供や運用アドバイスを行い、注文が被告会社の従業員に対する電話によってのみ行うこととされ、手数料も被告会社によって提供されているコースの中で最も高額であり、被告会社のウェブサイト(乙1)には、コンサルティングコースについて、「どこにもない、話せる、頼れる『株365』」という記載や、コンサルティングコースは「株価指数に興味はあるが、経験がない方(経験が浅い方)」におすすめである旨の記載があること(前記前提事実(3)イ)に照らせば、コンサルティングコースを選択する顧客は、被告会社の担当者からの適切な情報提供や助言を期待しており、被告会社もそのことを承知しているというべきである

 

第4 指導助言としてなすべき行為は何か?

1 才口補足意見

⇒顧客の取引内容が極端にオプションの売り取引に偏り、リスクをコントロールすることができなくなるおそれが認められる場合には、これを改善、是正させるため積極的な指導、助言を行うなどの信義則上の義務を負うものと解するのが相当である。

⇒「指導、助言」の具体的内容については言及されていない。

 

2 裁判例の傾向

⇒基本的には、指導助言の内容は、①リスクについての説明・情報提供、②取引を終了させる・取引を拡大させない、とするものである。①、②のいずれかのみというより、その双方を認めているものも多い。

 

3 リスクについての説明・情報提供をする

  ⇒説明義務の延長?

⇒説明義務違反を否定しつつ、指導助言義務違反を肯定しているケースがあることからすれば、単なる取引一般の説明にとどまるものではない。

⇒リスクがコントロールできない、合理的な判断ができない状態になっているなどの状況に陥っている顧客への説明・情報提供であるから、単に情報提供して、その後の判断を顧客にゆだねるのでは足りないといえる。

⇒このため、リスクについての説明・情報提供をすると同時に、取引を終了させることも指導助言の内容とされる傾向が見られる。

 

4 取引を終了させる(手仕舞い/損切り)・取引を拡大させない

⇒リスクがコントロールできない、合理的な判断ができない状態になっているなどの状況に対して、それ以上損失が拡大しないように、取引を終了させるように行動させる。

⇒適合性原則の延長?

取引を開始する適合性はあるが、危険が増大した時点で、事後的に適合性を失った。そのような場合に、取引を終了させる(あるいはそれ以上の取引拡大をさせない)。

⇒適合性原則違反

取引を開始させない(入口を通さない)/当該取引(商品)自体の問題

⇒指導助言義務違反

開始した取引をやめさせる(途中退場口)/当該取引(商品)の取引手法の問題

 

5 選択肢を否定しない

⇒【東京地裁令和4年3月15日(裁判例№17)】

顧客の選択が明らかに不合理であれば、適切な方向に導くための指導助言(説明・情報提供、あるいは取引をやめさせる)が必要になるので、結局同じことか?

自己決定が原則で、指導助言をなすのは、あくまで例外的な状況であることを示す趣旨か?

 

第5 指導助言義務と他の違法要素との関係

 1 過当取引(手数料稼ぎの違法)との関係

⇒過当取引(手数料稼ぎの違法)を認めると同時に、指導助言義務違反を認める事例があり、このパターンが比較的多い(裁判例№2、6、8、13,20)。

⇒手数料稼ぎの違法性が認められるならば、顧客の利益を犠牲にして自己の利益を図るという背信性が認められるのであり、それは、適切な指導助言義務の履行とは正反対の行為といえる。よって、手数料稼ぎの違法性が認められる事例においては、当然に指導助言義務違反が認められるはずであり、わざわざ指導助言義務違反という概念を持ち出す必要性はないのでは?

⇒それでも指導助言義務違反を認める理由は?

⇒顧客の要望に従った取引、顧客の判断に基づく取引であるとの反論への対応?

損失の発生について、損切りしたくないなどの本人の目先の要望(不合理な要望?)や判断に従って、不合理な取引が拡大するという側面もあるが、結局は、業者側が主導して、そのような取引をさせていることが問題であり、その点に業者側の帰責性があることを示すために、指導助言義務違反をも認定した?

例:【大阪高裁平成30年3月28日(裁判例№6)】

控訴人が注文した取引内容は、控訴人の損切りはしたくない等の目先の要望を聞き容れた形にしながらも、担当者の主導のもとに定められたと推認することができ、少なくとも、控訴人が担当者の提案や助言によることなく自らの意思と判断のみによって、注文、決算を行ったことはほぼなかったといえる。

⇒確実な違法性認定のため(いわばダメ押し?)

手数料稼ぎといえるラインに届かないという評価もあり得ると考え、念のため指導助言義務違反も認定しておくという考えか?(被告は手数料稼ぎの違法性を否認、控訴審でも手数料稼ぎが認定されるのか?)

 

2 適合性原則違反や説明義務違反との関係

⇒適合性原則違反・説明義務違反を認めつつ、指導助言義務違反も認める事例が見受けられる(裁判例№3、5、10、12、16、22)。

⇒取引開始時点で適合性原則違反や説明義務違反が認められれば、その後に生じた取引上の損害は、適合性原則違反や説明義務違反に起因するものとして、その違法行為と相当因果関係のあるものとして捉える考えもあり得る。

⇒そうだとすれば、敢えて指導助言義務違反を認める意味はどこにあるのか?

⇒たとえば、先物取引では、期限までに反対売買が予定されているので、最初の売買では取引が完了しない。このため、最初の売買における適合性原則違反・説明義務違反を認めるだけでは、その後に継続する取引での損失拡大についてまで業者側に帰責させられるか(因果関係があるといえるか)疑問が生じる余地がある。

⇒適合性原則違反・説明義務違反は、取引を開始させる時点における違法。他方、その後に継続する取引については、指導助言義務違反の問題として整理することで、継続的に行われる取引全体について違法である、継続的に行われる取引の中で拡大していく損害全体についても、業者側に帰責性があることを示しやすくなる?

⇒継続的な取引を繰り返す中で、リスクコントロールが困難になり、損害が徐々に拡大していくような取引類型は、指導助言義務という整理になじみやすい?先物取引では、期限までに反対売買が予定されているので、最初の売買では取引が完了しないので、指導助言義務違反が認められることが多いのか?

⇒他方、単発的な取引(単一商品の購入)の場合は、基本的には、購入時に全て完了するから、適合性原則違反・説明義務違反で扱う方が理解しやすい?

 

3 新規委託者保護義務違反との関係

⇒新規委託者保護義務違反を認めつつ、指導助言義務違反を認める裁判例(裁判例№3、8、20)、指導助言義務違反のみ認める裁判例(裁判例№7、9、15、20)、両者を同様のものとして一括で判断して認める裁判例(裁判例№14)、様々である。

⇒指導助言義務は、新規委託者でなくとも問題となりうるものであり、基本的には別個の義務内容のものであるが、名古屋地裁令和3年5月20日(裁判例№14)のように、新規委託者に対して多額かつ頻回な取引を勧誘した場合には、判断内容が重複する場合もある。

 

4 他の違法要素を否定しつつ、指導助言義務違反を肯定

⇒適合性原則違反や説明義務違反は否定しているが、指導助言義務を認める。

手数料稼ぎの違法性は否定しているが、指導助言義務違反を認める。

⇒指導助言義務違反の存在意義が大きいといえる。

⇒近時は、そのような裁判例も広がっているのではないか(第6参照)。

 

第6 指導助言義務違反が違法性認定の中核となっている事例

1 代表的な裁判例

⇒指導助言義務違反が中核になっているものは、指導助言義務違反の存在意義がより大きいといえる。代表的なものとしては、以下の事例が挙げられる。

 

【東京地裁平成21年2月23日(裁判例№4)】

 

【東京地裁平成30年9月28日(裁判例№7)】(原審)

【東京高裁平成31年3月28日(裁判例№9)】(控訴審)

 

【東京地裁令和4年2月18日(裁判例№15)】(原審)

【東京高裁令和5年3月16日(裁判例№21)】(控訴審)

 

【東京地裁令和4年3月15日(裁判例№17)】

 

【東京地裁令和4年3月16日(裁判例№18)】

 

【大阪高裁令和4年3月17日(裁判例№19)】

 

第7 その他の点

1 指導助言義務違反を認める事例における顧客属性

⇒平成17年最高裁判決の事例では、当事者の属性は、年商2~300億円の水産卸売会社で、20億円以上の資金を有し、その相当部分を積極的に投資運用する方針を有しており、資金連用業務を担当する専務取締役らは、株価指数オプション取引を行う前から、信用取引、先物取引等の証券取引を毎年数百億円規模で行い、証券取引に関する経験と知識を蓄積していたことというものであり、それなりに洗練された投資家である。

そのため、才口補足意見も、適合性原則違反を否定している。しかし、同時に、「経験を積んだ投資家であっても、オプションの売り取引のリスクを的確にコントロールすることは困難である」として、洗練された投資家についても、一定の状況下では、証券会社に指導助言義務が課されることを示している。

⇒裁判例においても、適合性原則違反を認めるのが困難な属性の事例があるが、指導助言義務違反は認められているものがある。

⇒洗練された投資家は、当該取引自体から排除すべきとまでいえず、適合性原則違反が認められにくいかもしれない。また、取引開始時の一般的な説明についても理解できているとして、説明義務違反が認められにくい可能性がある。

⇒しかし、当該取引を続ける中で、そのような投資家であっても、リスクが高い取引を行うにつれて、業者に依存せざるを得ない状況、リスクコントロールが困難な状況に陥ることはあり、かような場合には、指導助言義務による救済はされるべき。

⇒属性が厳しいと思われる事案でも、損失を被っていくプロセスに着眼していけば、指導助言義務違反という切り口で違法性を認定してもらえるケースもあるのではないか。適合性原則違反等は否定されつつも、指導助言義務違反で勝訴している事案もある。

 

2 指導助言義務の義務内容につき、どこまで特定が求められるのか?

⇒【東京高裁平成31年3月28日(裁判例№9)】

常時両建の状況になっている顧客について指導助言義務を認めた事例

被告の主張

具体的に、いつ、どのような相場予測に基づいて、売玉の決済か買玉の決済を指導すべきであったのか不明確であるとして指導助言義務を否定

判決内容

一審被告Y1は、遅くとも平成22年10月6日には、商品先物取引の初心者である一審原告が両建取引を継続することで損失を被る結果となることを具体的に予見し、又は予見することができたと認められるにもかかわらず、一審原告に対し、両建取引を維持継続することについて多大な危険性があることを説明せず、場当たり的な対応に終始していたものであるから、上記両建取引の解消について具体的な指導や助言をしたとは認められず、上記指導助言義務を怠った過失があると認められることは、前記1説示のとおりである。一審被告Y1について、具体的に、いつ、どのような相場予測に基づいて、売玉の決済か買玉の決済を指導すべきであったとまで特定することができないとしても、両建取引に関する指導助言義務を怠った過失があるとの上記の判断を左右するものとはいえない。

    

3 因果関係について

⇒【東京地裁令和5年5月29日(裁判例№22。仕組債取引の事案)】

仕組債買付後の指導助言義務違反(=時価評価額等について適時かつ正確な情報提供を行って途中売却の検討を含めた適切な指導及び助言をすべき注意義務)が主張された事例

⇒適合性原則違反・説明義務違反を否定した上で、仕組債買付後の指導助言義務違反を検討したが、以下の通り、指導助言義務の履行により損失の拡大を防止できたとはいえないとして、指導助言義務違反を否定。

【判示内容】

本件仕組債1を途中売却するための流通市場は確立されていないため、償還前に売却できない場合があり、売却できた場合でも投資元本を大きく割り込むことがあることが認められるところ、そのような状況の下で、本件仕組債1の買付け後、その途中売却が実現できたこと及びそれにより損失額の拡大を防止することができたことについては、これを認めるに足りる証拠がない

⇒指導助言義務違反が認められるのは、指導助言義務を履行することで、損害を回避することができることが前提になる。

⇒単発的な取引(単一商品の購入取引)だと、購入後に損失拡大を回避することが困難なことが多く、指導助言義務違反は認められにくい?この場合、そもそも購入させる行為に問題があるので、適合性原則違反・説明義務違反という構成の方がなじみやすい?

ただ、上記裁判例では、適合性原則違反・説明義務違反を否定しても、なお、指導助言義務違反を検討しているので、単発的な取引(単一商品の購入取引)であっても、その後の指導助言によって、損失拡大を回避できたとの立証があれば、そこで救済される余地はあるのかもしれない。

⇒継続的な取引内容が問題になるような事例(例:先物取引では、期限までに反対売買が予定されているので、最初の売買では取引が完了しない)では、継続的な取引の状況での対応次第で、損失の拡大を防ぐことができるので、指導助言義務違反が認められやすいのか?

 

4 過失相殺率への影響

指導助言義務違反が認められた事例についての過失相殺に関する判示内容

⇒特に指導助言義務違反を認めていることへの言及はなく、一般的な過失相殺事由に言及するだけの裁判例も多い。過失相殺率は、50%以上と高率のものも散見され、指導助言義務違反を認めるからといって、必ずしも過失相殺率が低くなるような傾向があるわけでもないようである。

⇒指導助言義務違反を認めていることに言及する裁判例として以下の2事例があった。

①【東京地裁平成21年2月23日(裁判例№4)】・過失相殺なし

証券取引は投資家が自己の判断と責任で行い、取引の開始、終了の判断、投資対象の判断等も自らの責任において行うべきものであるところ、上記の取引継続については、被告に損失拡大防止義務違反が認められるものの、原告の損失回復の意向が強かったことが被告の担当者において取引を継続させた要因になっているものと認められるから、上記損害の発生については、原告自身の意向が相当程度寄与しているものということができる。

しかしながら、上記被告の債務不履行の本質は、一定の状況に至った場合に、冷静かつ合理的な判断をすることができない顧客が損失を拡大することを防止するという義務を尽くさなかったことにあるから、本件において、上記義務違反によって生じた損害について原告の言動を考慮してこれを減額することは相当ではないと解される。したがって、上記損害額について過失相殺による減額はしないこととする。

 ②【東京地裁平成30年9月28日(裁判例№7)】・過失相殺3割

商品先物取引はリスクの高い投資であって、原告自身、そのことを認識し、かつ、自らが原則不適格者であることも認識した上で、自ら希望して本件先物取引を開始しており、多額の損失を出した後も本件先物取引を継続したことにより損失が拡大したものであって、このような取引経過に照らせば、原告には過失があるといわざるを得ない。もっとも、損失の現実化を回避したり、損失を取り戻そうとしたりする気持ちは自然なものであるといえるところ、商品先物取引業者においては顧客に適切な指導や助言をすべき義務があることは前記6のとおりであって、本件は、被告Yが同義務に違反したものであることを考慮すると、原告の上記過失を大きくみることはできない。そこで、原告の過失割合は3割と認めるのが相当である。

⇒これら2事例は、いずれも、指導助言義務違反を認める事例であることから、その点を考慮して過失相殺率を低くするとの判断を明示している(0~3割)。

⇒指導助言義務違反が認められるのは、顧客が専門家である業者側を信頼し、依存している関係がある場合といえる。業者は、信頼関係を利用して収益も上げている(手数料稼ぎ目的でなくとも取引により収益を上げることには違いない)。にもかかわらず、このような信頼関係に違背した業者側の責任は大きいといえる。

⇒他方で、危険な取引状況に陥る中で、業者側を信頼し、依存するしかなくなっている状況の消費者の行動について、落ち度を問うのは酷だといえる。少なくとも業者側の行為に比して、非難可能性は相当小さいはず。

⇒指導助言義務違反を主張する場合には、上記2事例の判示内容を指摘して、過失相殺率を低くするようにアピールすべきではないか。

 

第8 指導助言義務違反をどう活用するか?

1 指導助言義務の深化

(1)当初は、指導助言義務違反を主たる違法要素とするものは少なく、他の違法要素(たとえば手数料稼ぎ目的の過当取引)とともに認定され、指導助言義務違反が別個の違法要素として存在意義があるのか疑問な事例も見られた。

このような事例では、指導助言義務違反は、ダメ押し的に認定されており、他の違法要素をより明確にする意味あいが大きいと思われる。

(2)しかし、次第に、他の違法要素が否定されても、指導助言義務違反が認定される事案も見られるようになってきた。

たとえば、手数料稼ぎ目的の過当取引のような適切な指導助言とは正反対の違法行為があるとして、それと同時に、指導助言義務違反も認定していたものが、次第に、手数料稼ぎ目的までは認められないとしつつ、指導助言義務違反を認定する事例が見られるようになった。

また、説明義務違反、適合性原則違反との関係でも、説明義務違反、適合性原則違反があったとした上で、その後の損害の拡大の場面を指導助言義務違反として問題とするようなものから、次第に、取引に関して適合性はあり、一応の説明も受けているとして説明義務違反も否定しながら、指導助言義務違反を認定する事例が見られるようになった。

(3)指導助言義務違反は、独立の違法要素として存在しており、指導助言義務違反認定にあたって、何らかの違法行為が先行している、あるいは、同時に他の違法行為が存在している必要はないといえる。

特定の状況(危険な状況、依存的状況など)があれば、特定の状況に陥ったこと自体が、業者側の違法行為に起因していなくとも、指導助言義務の発生は肯定されうる。

(4)指導助言義務の履行としては、単に顧客に情報を提供して、顧客自身の判断にゆだねるだけではなく、積極的に説明や手仕舞いなどの指導をして、損失を被らないように配慮をすることが要求される。

(5)近時の指導助言義務違反の裁判例を見ると、他の違法要素ではカバーされないものとして、指導助言義務違反の存在意義がより明確になっているといえるのではないか?

 

2 今後の活用可能性

金融商品取引の被害救済の分野において、適合性原則違反・説明義務違反が重要な違法要素であることは当然である。

しかし、特に継続的にハイリスクな取引が繰り返されているような類型においては、取引が繰り返される中で、損失が拡大していくプロセスに着眼して、その中で、単なる情報提供にとどまらず、積極的な指導助言を行って、顧客が損失を被らないような配慮がなされたかを検証し、それがなされていないなら、指導助言義務違反を主張していくことも必要ではないか。

指導助言義務違反を認める裁判例が広がる中で、次第に指導助言義務の内容も深化していると思われ、今後の裁判例のさらなる蓄積により、被害救済の幅を広げていくことができるのではないかと思われる。

以 上