(対)アスカフューチャーズ 神戸地裁姫路支部 平成20年7月14日判決

神戸地裁姫路支部平成20年7月14日判決(アスカフューチャーズ)
先物取引裁判例集52巻298頁

【判旨】

  1. 異なる商品間の値段差を利用して儲ける取引をすることは,サヤ取引にはあたらないが、担当者Aが勧誘した取引は,灯油とガソリンが,ともに原油を原料とし,基本的に同じような値動きをするものの,需要期の違いから値段差が生じるため,この値段差を予想して値ざやを稼ぐことを目的とするものである。この価格差の開きについて適切な予想・判断をするためには,商品市場の深い理解と運が要求される上に,その機能は両建に近く,同時に仕切るのではない個々の建玉を仕切るタイミングが難しいために,決して「安全な取引」であるということはできない。Nは,勧誘に際し,「裁定取引・サヤ取引」と題する書面 (甲A9)の記載や「サヤ取引は利益は少ないが確実な取引であり,追証の心配がない。」旨の説明によって,原告に,サヤ取引はリスクヘッジがされており,通常の売買よりも損失が少ない安全な取引であるとの誤解を与えた。また,担当者Bも「サヤ取引」のリスク等について十分な説明をしないまま,安易にガソリンと灯油の反対建玉をさせており,この点において,担当者A及びBは,原告に対する説明義務を怠っており,違法である。
  2. 原告は,度重なる委託臨時増証拠金の徴収や追証の発生により,2月19日の時点において預託金額が300万円を超過していたところ,担当者Bは,取引開始後2週間足らずの時期であったにも関わらず,今後,追証等が外れた場合に,預託金額を証拠金に流用して建玉することを予定して,予め超過申出をするよう勧めたことが認められる。そして,原告にはこれまで先物取引の経験がなく,預貯金等も1000万円程度で潤沢な投資資金を有していたとはいえないこと,この超過申出の許可後に建玉が著しく増加していったこと,本件取引の損失は過大な建玉に起因するところが大きいこと等に照らすと,中村の勧誘及び被告による超過の許可には,新規委託者に対する配慮が欠けていたというべきであり,新規委託者保護義務違反にあたる。
  3. 本件取引によって生じた損害については,原告にも不注意な点があったといわざるを得ないところ,被告従業員らの行為の違法性の程度,原告の本件取引に対する姿勢,原告の能力や資力等の諸般の事情を考慮すると,原告の過失割合は3割と認めるのが相当である。

原告訴訟代理人
弁護士 加藤 恵一  弁護士 平田 元秀

裁判長 田中 澄夫  裁判官 大島 道代  裁判官 財津 陽子