(対)オリエント貿易 神戸地裁姫路支部 平成18年6月12日判決
神戸地裁姫路支部平成18年6月12日判決(オリエント貿易)
先物取引裁判例集44巻391頁
【判旨】
- 両建は,新たな手数料の負担があるのみならず,一方の建玉を仕切って両建を外した後の相場の動向によっては,さらに損失が拡大するリスクもあるのであり,損切りにはない投機リスクを背負うことになる(損切りであれば,投機に適した局面になるまで随意 に新たな建玉を控えることができる。)。しかるところ,委託者の心理として,損失が発生し追証を迫られた局面で,損切りをして損失を顕在化させることを嫌い,上記のような両建の本質を十分理解しないまま安易に両建をして様子を見るという方法をとりがちであり,合理的な相場予測も持たないまま両建により投機金額を拡大し,予期せぬ多大な損失を被る結果となることがしばしばある。したがって,商品取引員としては,委託者が損切りを避けようとするからといって,単なる様子見のために安易に両建を勧誘することは委託者の利益を擁護すべき信義則上の義務に反するものとして許されず,上記のような損切りと対比した両建の本質を十分に理解させた上,なおかつ委託者が両建を希望する場合や上記のようなリスクのある両建をするに適した合理的な相場予測が可能な場合にのみ両建の勧誘が許されるものというべきである(ただし,商品取引所法施行規則46条11号が禁止する両建については,いずれにしても許されない。)。
- 被告が定める受託業務管理規則によれば,商品先物取引の経験のない委託者等について3か月間の習熟期間を設けることとし,習熟期間中の委託は50枚を限度とするとされている(7条)ところ,これらの内規に反する建玉を勧誘し,これを行ったことが直ちに違法性を帯びるとまではいいがたいが,このような内規が制定されたのは,商品先物取引の経験の乏しい顧客が取引の危険性を真に理解しないまま不用意に多額の取引を行い,予期せぬ多額の損失を被ることがないようにする趣旨であると解され,この点にかんがみると,特段の事情がない限り,これらの内規に反する取引は新規委託者保護義務違反として違法性を帯びるものというべきである。
- 商品取引所法136条の18及び同法施行規則46条は,決済を結了する意思表示をした顧客に引き続き取引を継続することを勧めてはならない旨規定する。そして,商品先物取引の危険性にかんがみれば,この規定の解釈適用は厳格になすべきであり,顧客が真意に基づきなした当該意思表示については,商品取引員において厳に尊重すべきものであって,当該時期に手仕舞いをなすことが明らかに顧客の利益に反するなどの特段の事情がない限り,取引の継続を勧誘することは違法となると解される。
- 取組高均衡仕法を採用する商品取引員としては,その旨を委託者に事前に開示すべき信義則上の義務がある。
原告代理人
弁護士 土居 由佳 弁護士 平田 元秀 弁護士 中野 二郎
裁判長 田中 澄夫 裁判官 黒田 豊 裁判官 小嶋 宏幸